本県のスタートアップ推進及びイノベーション創出に向けた官民連携について伺う。
本年8月下旬に新政あいち県議団の経済労働部会メンバーで、北海道にあるスタートアップである株式会社岩谷技研と、北海道経済の成長を支える産業クラスター創造に向けた産官学連携施設である公益財団法人北海道科学技術総合振興センターを調査した。
株式会社岩谷技研は、気球による宇宙旅行を目指して2016年に設立された会社で、気球による宇宙旅行を目指すというコンセプトが分かりやすく感じた。製造工程も分かりやすいものであり、作業している人は女性のパートが多く、ビニールハウスのフィルムを圧着して気球を製造しており、使用する器具もありふれたものばかりだった。
2025年における宇宙旅行市場の規模は6,640億円と言われる中、来年度中に宇宙旅行を開始し、数年後には100万円台で誰でも宇宙旅行が楽しめることになるとの話は説得力があり、現実的なビジネスモデルだと感じた。
公益財団法人北海道科学技術総合振興センターは、研究開発から事業化までの一貫した支援を活動理念に、国、道及び市などの行政、道内経済4団体並びに北海道大学をはじめとした大学の産官学連携施設で、2001年に設立され、近年はスタートアップの創出に力を入れていた。恵まれた環境に加えて様々な支援を受ける中で、参画企業は各方面でヒットは打ち出しているが、ホームランと呼べるまでの実績には至っておらず、あとは実績を待つのみとの話を聞いた。
スタートアップ支援は広域自治体を中心に全国各地で展開されており、自治体間競争ともいえる。その中で、本県の取組の強みはどのようなところにあるのか。
また、今回調査した株式会社岩谷技研をはじめ他地域でも有力なスタートアップが生まれていると感じるが、そうしたスタートアップのSTATION Aiへの誘因や連携はどのように図られているのか。
【スタートアップ推進課長】
本県の取組の強みについては、一つ目がモノづくり産業の分厚い集積、二つ目がグローバルネットワークであると考えている。
一つ目の強みは、本県は圧倒的なモノづくり産業の集積を背景として、スタートアップが新産業を創造してユニコーンになっていくという手法だけでなく、地域のモノづくり企業とスタートアップとの共創、すなわちオープンイノベーションを推進する強固な地盤があることだと思っている。
二つ目の強みは、大村秀章愛知県知事が自ら世界中の先進的なスタートアップ・エコシステムに出向き、現時点で5か国14大学及び支援機関と具体的な連携を実現していることだと考えている。
スタートアップの誘引や連携については、STATION Aiの前身であるPRE-STATION Aiにおいて、リアルで支援を受けるスタンダードメンバーに加え、オンラインでサポートを受けるリモートメンバーを設定しており、他地域の有力スタートアップをメンバーとして誘引する仕組みを設けている。
現在、135社のメンバーのうち4割を超える60社が県外のスタートアップであり、そのうち5社は海外のスタートアップである。PRE-STATION Aiは臨時の拠点のためスペースに限界があり、基本的にシードアーリー期と言われる初期のスタートアップをメンバーとしているが、STATION Aiが開業した際には、その対象がオールステージのスタートアップになるため、今後も本県の強みを生かしながら有力スタートアップの集積を図り、ユニコーン企業が次々と生まれるエコシステムをつくり上げていきたい。
公益財団法人北海道科学技術総合振興センターとの意見交換の中で、専務理事が北海道は第1次産業を除くと目立った産業に乏しく、北海道で育った優秀な学生が道外に流出してしまうことが大きな課題であると話していた。モノづくり王国である本県の強さを感じるとともに、新たな産業創出のためにも、若いうちから人材を囲い込む必要があると感じた。
新規事業として実施した小中高向けの起業家教育プログラムは、どのようなプログラムなのか。また、実際に起業家教育プログラムに参加した学生からはどのような反応があったのか。
【スタートアップ推進課長】
小中高生向けの起業家教育プログラムは、プログラムの名称をあいちスタートアップスクールと題し、小学生向け、中学生向け及び高校生向けの三つの起業家育成プログラムを展開している。
年齢によるレベルの違いはあるが、プログラムの趣旨は、日常生活から課題を見つけ出し、その課題を解決するためのビジネスを構築することである。具体的には、小学生向けのプログラムは半日で、社会に役立つロボットを考案し、1人ずつ考案したロボットをポスターに描いて発表するものである。中学生向けのプログラムは2日間で、まず、起業家の講演を聞き、その上で社会課題を解決するためのロボットをグループで企画し、模擬的な資金調達から販売、決算まで行うものである。高校生向けのうち基礎編は3日間で、まず、起業家の講演を聞き、その後、社会課題を解決する商品やサービスをグループで企画するとともに収益モデルの検討などを行い、最後にプレゼンテーションを行うものである。また、高校生向けのプログラムのうち応用編については、現在、企画している。
参加した学生の感想については、プログラムは難しかったが楽しかったとの意見が大半を占めており、プログラム終了後のアンケート結果では、将来起業したいと回答した者は小学生が61パーセント、中学生が83パーセント、高校生が82パーセントで、将来に期待が持てる結果になったと考えている。
2024年開業予定のSTATION Aiに期待が寄せられることは当然で、その効果をより高めるためにはスタートアップ・エコシステムの形成が重要であり、県内各地との連携が求められる。このことはAichi-Startup戦略にも記されている。
一方、パートナー拠点となる地域にとってのメリットや効果はどのように考えられているのか。昨年度、東三河地域で東三河スタートアップ推進協議会を拠点第1号として位置づけ、現在、精力的な取組を行っていると聞く。こうしたスタートアップ・エコシステム形成に向けた取組を通じ、地域にはどのような成果をもたらしているのか。
【スタートアップ推進課長】
東三河地域では、従来から複数の機関が個別にスタートアップ支援に取り組んでいたが、相互連携は十分に取れていない。こうした中、地域の行政、経済界及び大学などが連携して東三河スタートアップ推進協議会を設置し、地域の強みの一つである農業と食をテーマに地域の各機関が連携してイベントを開催することで地域一体となった取組を進めることとされた。
こうした動きを受けて、県はSTATION Aiパートナー拠点第1号に位置づけるとともに県の統括マネージャーを設置し、STATION Aiプロジェクトとの連携を図り、東三河地域のスタートアップ・エコシステムの構築を後押しすることとした。
現在では、SNS上で東三河起業家コミュニティを展開しており、僅か約1年で1,000人以上の地域内外のスタートアップや支援機関が登録した。また、スタートアップや支援機関の地域間交流を促すプログラムを展開している。さらに、域内8市町村が連携した実証実験をサポートする枠組み、スタートアップ・エコシステムの定期的な勉強会及びエンジェル投資家とのネットワーク構築など、様々なプログラムが展開されつつある。
具体的な成果としては、名古屋大学発の農業分野のスタートアップによる豊橋市内の農地における実証実験が実現した。また、東三河に拠点を置くスタートアップの3社がPRE-STATION Aiのリモートメンバーとなっており、続々と地域内外の交流や連携事例が生まれつつある。東三河スタートアップ推進協議会のメンバーから意見を聴くと「横の情報交換が円滑になり連携してスタートアップを支援する土壌が生まれつつある。」、「域外のスタートアップが市内に拠点を開設したり市内の事業者との共創事業が生まれるなど地域経済の活性化につながる事例が出ている。」など、前向きな意見が多い。
イノベーション創出に向けた官民連携について伺う。
現在、本県では革新事業創造戦略を本年12月に策定及び公表することに向けて作業を進めていると聞く。こうした中、本年8月16日の日本経済新聞や9月5日の中日新聞に、本県が課題解決に向けて健康長寿や農林水産業など7分野を中心に民間のアイデアを通年募集し、本年10月から受付を開始するとの記事が掲載された。
そこで、どのような考え方で7分野を選んだのか。また、どのように提案の受付を進めていくのか。
【イノベーション企画課長】
革新事業創造戦略では、政策リソースの重点化及び早期の先行事例の創出を図るという観点から重点政策分野を設定した。
重点政策分野については、本県の地域づくりの指針であるあいちビジョン2030において重点的に取り組むべき施策として掲げられている、危機に強い安全・安心な地域づくり、全ての人が生涯にわたって活躍できる社会づくり、持続可能な地域づくりなど、10の重要政策を基礎に置いている。その上で、革新事業創造戦略の目的である社会課題の解決や地域活性化を目指す官民連携のプロジェクトの創出を図るために、三つの視点を設定している。具体的に、一つ目は官民の連携により取組の加速及び強化が期待できる分野、二つ目は公費のみによらず民間資金による自立的な仕組みの構築が期待される分野、三つ目は本県の地域資源や県が進める主要プロジェクト等を活用できる分野であり、この三つの視点の下、革新事業創造戦略では健康長寿、農林水産業、防災危機管理、文化芸術、スポーツ、グリーントランスフォーメーション及びデジタルトランスフォーメーションという七つの分野を導出した。例えば、健康長寿の分野は、高齢化の急速な進行により行政だけでは財源や人手が逼迫する中で民間の力の導入が非常に期待されている分野であるため、導出した。また、高齢化は世界的な課題であると同時に、今後の成長産業分野と見込まれている。そうした中、本県には大府市に国立長寿医療研究センターが立地しており、その強みを生かしたプロジェクトを進めていきたいと考えている。
なお、イノベーションは様々な分野での創出が期待されており、プロジェクトの提案の受付は七つの重点政策分野に限らず幅広く受け付けていきたいと考えている。
次に、提案の受付の進め方については、現在、本年12月の革新事業創造戦略の策定及び公表に向けて、10月中に第2回の有識者による戦略策定会議を開催していきたい。
この戦略策定会議では、革新事業創造戦略案の取りまとめを行い、その戦略案の取りまとめと併せて、地域の多様な主体から提案を受け付ける革新事業創造プラットフォームをウェブ上に立ち上げ、インターネットサイトを構築したいと思っている。このプラットフォームでは、プロジェクトの提案のほか、この地域の大学や企業が有する研究シーズ及び技術シーズ並びに各種行政機関が持つ各種支援策を受け付けてデータベースとして取り込み、相互のマッチングを図ることでオープンイノベーションを促していきたいと考えている。さらに、プロジェクトの提案のうち優れた提案については、提案者と関係者から成るワーキンググループを設置して提案の具体化を図ることとしている。
なお、革新事業創造プラットフォームは、本年10月を試行運用として革新事業創造戦略案のパブリックコメントを実施する予定で、併せてプロジェクトの提案及び研究技術シーズの登録を開始し、その後、革新事業創造戦略を策定及び公表する予定である。そして、12月にはプロジェクトの提案、研究技術シーズ及び支援施策のマッチング機能を導入し、本格的な提案の受付を開始したいと考えている。
以前、福岡市が行うmirai@に興味を持ち、福岡市総務企画局を訪ねた。この事業は、社会課題解決のために、AIやIoTを含めた民間ノウハウを活用して公民連携をさらに推進することを目的とした事業である。ホームページには公民連携のハブとして、提案受付、サポート、情報提供、情報発信等を一元的に行い、関係部局と連携をしながら、民間提案の実現をサポートしますと記載されており、民間事業者からは市役所への声がけがしやすくなったと、過去にはなかった提案を受ける一方で、総務企画局からは庁内関係課室との調整に苦労していると聞く。
mirai@は、革新事業創造戦略とはコンセプトやスキームが異なる部分もあるため一概に比較することはできないが、戦略を具体的に進めるには、庁内関係課室との連携が大変重要だと考える。例えば、あいち農業イノベーションプロジェクトの所管は農業水産局であるが、健康長寿社会形成ビジネスモデルは福祉局や保健医療局の所管であると思いきや経済産業局である。
提案の具体化に向けて、どのように庁内関係課室と連携を図り、適切につなげるのか。
【イノベーション企画課長】
革新事業創造戦略では、有識者から成る戦略会議で優れた提案を選定した後、アイデアの提案者や庁内関係課室のほか、必要に応じて提案内容に関係する市町村、国の機関及び関係事業者などの参画を得てワーキンググループを組成し、提案の具体化の検討を進めていく。
具体的な検討内容は、事業化に当たり対応すべき手続や規制などの法制面、事業収支の自立可能性や行政側の歳出に関する検討などの収支経済面、さらに事業化に必要な関係者の参画や実施場所の確保などの体制面の観点から検討を進めたいと考えている。
そのため、ワーキンググループでは、イノベーション企画課と提案の内容を目的に最も関わりの深い庁内課を事務局とし、提案内容に関係する制度や規制を所管する課、支援制度を所管する課及び実施場所となる県有地や施設を所管する課などの参画を予定している。また、ワーキンググループでの検討は、最終的に提案の具体化に向けた関係者の役割分担やロードマップの取りまとめを行っていきたいと考えており、その中で、庁内関係課室の事務事業を定め、適切な所管課において必要な役割を果たす体制をつくっていきたいと考えている。
こうした取組が進められるように、本年7月に各局の企画担当課等を構成員とした革新事業創造庁内連絡会議を設置した。革新事業創造庁内連絡会議を活用し、全庁的な連携の下で戦略の推進を図っていきたい。
スタートアップ推進に当たり、自治体間で競争となる部分もあると思う。
環境整備も大切な観点だが、結果も求められる事業である。ユニコーン創出は容易でないことは承知しているが、結果を意識した運営をしてほしい。
一方、革新事業創造戦略は民間提案を起点とした官民連携プロジェクトであり、出たとこ勝負という点では期待と不安が混ざったプロジェクトだと思う。
先ほど紹介した記事の中のうち東洋大学大学院の難波悠教授のコメントには、非公募型民間提案制度を都道府県単位で取り組むことはめずらしいが、行政が民間の提案を読み解き、技術的に可能か、これまでより効率的になるのかについて、的確な審査が課題になると指摘されている。
庁内関係課室との連携も含め、事務局に求められる部分が大きいと考えるが、前例なき社会課題の解決に向けて失敗をおそれない積極的な姿勢でプロジェクトを進めてほしい。