2020年10月、社会人として働き始めたばかりの1人の女性が自らの命を絶った。彼女の身に何が起こったのか。報道記事によると、事件は1か月前のささいなやり取りから始まった。
この年の8月末、彼女は、大学の同級生からインスタグラムを通じて投資の勧誘を受けた。その後、彼女は、LINEでやり取りを行う中、マルチ商法なのではないかと疑いを持ち悩むものの、しつこい勧誘に押し切られ、消費者金融3社から150万円を借りて渡してしまった。しかし、配当金を受けることはなく、その後、返金を求めるものの、笑ってはねのけられてしまう。自分がだまされたこと、友達に裏切られたこと、自分以外にもたくさんの被害者がいること、また、400万円近い奨学金の保証人になってもらっていた親にさらに迷惑をかけたことなどを1人で抱え込む中、精神の不調を来し冒頭の結果に至ったそうだ。この女性が被害に遭ったジュビリーエース投資詐欺事件は、被害者10万人、被害総額は650億円と言われている。
先日、警視庁生活経済課は、投資詐欺やマルチ商法に注意してもらおうと駒澤大学で学生を対象にしたイベントを開き、マルチ商法事件の捜査に携わった捜査員が学生に被害の実態や勧誘方法について説明をしたそうである。
全国の警察に寄せられた投資詐欺に関する相談は、令和4年に2,548件あり、そのうち、20代、30代からの相談は約3割の790件、若者からの相談は、5年で約4倍に増加しているそうである。
悪質商法自体は昔からあり、私が小学生の頃だと、現物を渡すことなく金やプラチナを預かり証券という形で販売し、多くの被害を出した豊田商事事件は衝撃的な結末を迎えた。また、私自身も学生時代、幸い被害に遭わなかったものの、怪しいと思う商品の勧誘をしばしば受けることもあった。悪質商法との闘いは、過去から常にいたちごっこのように展開されている。
そこで、悪質商法の現状はどのようになっているのか。あわせて、最近の手口について伺う。
【生活経済課長】
悪質商法は、出資、投資などで高配当が得られるとうたってお金を集める利殖勧誘事犯と、訪問販売や電話勧誘販売などでクーリングオフができることを伝えないものや、契約書を交付しないなどの特定商取引等事犯などである。
最近の手口については、まず、SNS等のコミュニケーションツールやマッチングアプリで知り合った若者に暗号資産などの商材の購入を勧め、さらに、その知人等に他の顧客を勧誘させて利益配当を与える、いわゆるマルチ商法の手口が多く見られており、被害が潜在化しやすく、若者が多額の借金を負うケースが増えてきている。
また、ホテルの会議室などでセミナーを開催して高配当をうたって架空の投資の勧誘をするなどといった旧来の手口も、依然として発生している。
悪質商法に関する県警察の検挙状況はどのようになっているのか。
【生活経済課長】
利殖勧誘事犯及び特定商取引等事犯の検挙状況については、令和4年は12件、28人を検挙しており、本年は5月末現在で4件、8人を検挙している。
具体的には、昨年、成年年齢の引下げに伴い、この世代を標的とした悪質商法の増加が懸念された中、19歳の女性をアルバイトの面接と称して事務所に誘引し、言葉巧みに映画出演の話をほのめかして高額な演技レッスン契約を締結した悪質な芸能プロダクションを、昨年10月、特定商取引法違反の事実で検挙した。
また、本年4月には、歓楽街の飲食店で知り合った若い女性に対して実態のない投資グループへの投資話を持ちかけ借金を負わせるなどして現金をだまし取った被疑者4人を、詐欺と出資法違反の事実で検挙している。
こうした犯罪がなくならない以上、犯罪に巻き込まれないような広報啓発活動が重要であり、広く県民に関心を持ってもらうためにも、多くの機会をとらえて行うことが大切である。
そこで、他の行政機関との連携はどのように行っているのか。
【生活経済課長】
行政機関との連携については、県民からの相談を受け付けている消費生活センターをつかさどる中部経済産業局、愛知県、名古屋市等と、日頃から窓口で受理した相談内容や悪質業者に関する情報交換を行っているほか、中部経済産業局や県が主催する定期的な会議において、被害の傾向や対策などについて情報共有を図っている。
また、事件検挙後も、捜査の過程において判明した悪質業者の犯行手口について、行政機関のみならず、関係団体に対して情報を提供し、警鐘を鳴らしている。
冒頭に述べた事例を含めて、SNS等を通じて若い人たちが巻き込まれるケースをよく耳にする。先ほど答弁の中にもあった成年年齢引下げもこうした要因の一つと考えられるが、県警察として、どのような対策を行っているのか。
【生活経済課長】
県警察としては、悪質商法に関する相談を受理し事案を認知した際は、必要に応じ捜索差押えを実施するなど迅速な事件化に向けて捜査を推進し、検挙に至った場合には、報道発表することにより広く県民に警鐘を鳴らして被害の未然防止を図っている。
事件検挙後には、県警察ホームページ、ツイッター、スマートフォンアプリ「アイチポリス」など、若者が目にしやすい広報媒体を活用し、悪質商法の手口を紹介して注意喚起を図っている。
県警察のホームページをはじめ、各県警察では、このホームページを中心に様々な情報発信をしている。しかし、若者がこうしたホームページをどれだけ見ているのか。やはり、動画などを上手に活用すると、広がりも見せると考える。
また、こうした問題に向き合う人気ユーチューバーも存在する。視聴した人もいると思うが、かなり生々しい内容である。こういった警察とのコラボレーションになると難しいのかもしれないが、若者への波及効果には絶大な効果があると思う。
冒頭の事件については、女性の母親は、自分の娘に起きたことは、今後、絶対に起きてほしくない、この悪質な詐欺を1人でも多くの人に理解してほしいと実名を出して事件の経緯を詳細に語っている。若者の未来を奪う悪質な犯罪を未然に防ぐよう、広報啓発活動の展開をはじめ、より対策に力を入れるよう要望する。