予算に関する説明書(1)歳出第5款経済労働費第2項商工業費のうち、あいちデジタルヘルスプロジェクト推進事業費について伺う。
昨年12月21日、本県はデジタル技術等を活用して、県民の健康寿命の延伸と生活の質向上に貢献する各種サービス及びソリューションの創出を目指す、あいちデジタルヘルスプロジェクトの立ち上げについて、国立長寿医療研究センター及び民間事業者4社との間で基本合意に至り、連携協定を締結した。
一般的に、研究機関と民間事業者の共同研究によって、研究機関の知見を活用した商品・サービスの開発が行われることはよくあるが、今回、このプロジェクトに本県が加わる意義や役割は何か。
【イノベーション企画課長】
あいちデジタルヘルスプロジェクトは、オンライン健康医療相談や高齢者の遠隔見守りといった、デジタル技術を活用した新しいサービスについて、社会実装に向けた研究開発や実証実験を支援するものである。
認知症高齢者の急増という社会課題に対応していくため、2017年9月に策定したあいちオレンジタウン構想に基づき、国立長寿医療研究センターを中核とした産学官連携による共同研究や、スタートアップ等と県内研究機関との連携支援に取り組んできたことが、プロジェクトの立ち上げに至った経緯である。
そうした中で、今回のプロジェクトは、製品やサービスを生み出すためのものではなく、産学官連携の枠組みで超高齢化という社会課題の解決を目指す点に意義がある。
その枠組みの中で、本県はプロジェクトの推進組織として発足させる、あいちデジタルヘルスコンソーシアムの事務局として、プロジェクト参加者の連携・調整を図ること、プロジェクト全体像を示す基本計画を取りまとめること、プロジェクトの推進の進行管理を図ることなど、プロジェクト全体の企画調整役を担っていく。
また、プロジェクトの財源について、国のデジタル田園都市国家構想交付金など、外部資金を獲得することも視野に入れて取り組んでいく。
来年度予算では、プロジェクトの全体像を示す基本計画を委託で策定するとのことであるが、受託業者にはどのような能力を期待しているのか。
【イノベーション企画課長】
来年度策定する基本計画は、研究開発や実証実験を行う個別のプロジェクトを幾つか立ち上げ、何を実施するのか明らかにしていくものであり、受託業者には、その取りまとめ業務を中心に委託する予定である。
個別プロジェクトの具体化は、民間企業が中心的な役割を果たすことを想定しているが、その際、受託業者には企業と連携して魅力的で効果的なサービスやソリューションの絵姿を描く企画立案能力、あるいは、研究開発や実証実験から社会実装に至るロードマップを具体化するなど企業と連携してビジネスモデルを磨き上げていく能力、さらには、プロジェクトを効果的に推進するため、民間企業と国立長寿医療研究センターや民間企業同士などのプロジェクト参加者間の連携や役割分担を適切に行うための調整能力を期待している。
協定締結発表の際、県は医療・介護に関する研究開発の加速や、県民の健康寿命の延伸、高齢者の地域居住の支援などの取組を実施し、誰もが安心して、元気に暮らせる愛知づくりを進めていくと意気込みを示した。
そこで、プロジェクトで生み出されるサービス及びソリューションのイメージや、協定締結4社がこれまで行ってきた高齢者向けのヘルスケア関連の取組例について伺う。
【イノベーション企画課長】
プロジェクトの内容は、基本計画で取りまとめる予定であるが、現時点では、協定を締結した4社のこれまでの取組を踏まえ、方向性を検討している。
具体的には、中部電力株式会社では、電力スマートメーターを活用し、家庭での電力使用状況を解析することにより、認知症の前段にあたるフレイルを検出する実証実験を行っている。こうした取組を踏まえ、電力スマートメーター等の活用により、高齢者を含めた地域住民の安心・安全な暮らしをサポートするサービスの開発などを想定している。
名古屋鉄道株式会社では、バス、鉄道、タクシーなどの交通サービスとともに、これらの交通サービスをつなぐことで円滑な移動ができるMaaSアプリを提供している。こうした取組を踏まえ、本サービスの利用者の輸送及びヘルスツーリズムの企画・運営など、高齢者の移動や外出の支援などを想定している。
ソフトバンク株式会社は、スマートフォンアプリ等を通して、オンラインで健康相談や医薬品の購入などができるサービスを提供している。こうした取組を踏まえ、ヘルスケアサービスを提供するスマートフォン用アプリなど、本プロジェクトの基盤となるオンラインプラットフォームの構築などを担うことを想定している。
東京海上日動火災保険株式会社は、認知症予防や疾患の早期発見につながるサービスや保険商品の開発などを実施しているほか、医療MaaSとして、医療機関での診察と調剤薬局での処方薬受取を一括で手配できるタクシー配車の実証実験などを行っている。こうした取組を生かしたヘルスケアソリューションの開発などを想定している。
このように、協定締結4社の取組をベースに、国立長寿医療研究センターの知見も加えることで、健康長寿分野のイノベーションにつなげていく。
名古屋鉄道株式会社では、高齢者の移動や外出の支援などを想定しているとのことであった。私は、昨年9月定例議会の一般質問で、高齢者の移動や外出支援に取り組むことで介護費用が削減できるという日本福祉大学の斉藤雅茂准教授の論文を紹介した。これは、常滑市を研究フィールドに、趣味の会やスポーツの会に週1回以上参加する人を10パーセント増やすことができた場合、常滑市全体で11年間に8,000万円程度の介護費用を削減できる可能性があるというものである。
プロジェクトを具体的に進める過程の中で、研究開発や実証実験フィールドが必要なときもあると思うが、市町村は、このプロジェクトにどう関わるのか。
【イノベーション企画課長】
本プロジェクトで実施する研究開発や実証実験は、対象とするフィールドが必要であり、その際には、高齢者向けの健康づくりサービスを実施している基礎自治体の協力が不可欠である。
さらに、本プロジェクトでは、生み出された健康づくりサービスを基礎自治体が高齢者向けの健康づくり事業として採用していくことが想定されるため、社会実装に当たっては、想定顧客となり得る基礎自治体に意見を聴くといった関わり方もあると考えている。
そのため、来年度の基本計画の策定作業の中で、個別プロジェクトの概要が固まってくる段階においては、基礎自治体にも協力を打診していく予定である。
また、プロジェクトの基本計画策定後、2024年度からプロジェクトを推進する段階では、協力を得られる基礎自治体にもプロジェクトの推進体制に加わってもらうことを考えている。