私からは三つの項目について伺いたいと思う。まず1点目として、コミュニティ・スクールについて伺う。私は子供の教育を考える際に、学校と家庭に加えて、地域がもっと関わりを持つことができないかと考えている。そうした中で、先日の新聞において文部科学省で推奨しているコミュニティ・スクールが今年4月1日現在で、全国で前年同期より394校増加し、1,183校になったという記事が掲載されていた。コミュニティ・スクールについては以前、当委員会で小出委員からも質問があったと伺っているが、全国的な動きが活性化しつつある現状を踏まえて、現在の本県におけるコミュニティ・スクールの導入状況を伺う。
【義務教育課長】
現在、本県でコミュニティ・スクールを実施しているのは、一宮市の小学校34校、中学校16校の計50校であり、一宮市は今後、平成25年度までに一宮市内の全61小中学校に拡大する予定である。また、本年度より北名古屋市の3小学校がコミュニティ・スクールの実施に向けて、組織や運営の体制づくりなどの準備を進めているところである。また、ここ数年の動きとしては、平成19年度より東海市が、平成20年度より幡豆町がコミュニティ・スクールを実施していたが、現在は取りやめている。この両市町ともに当初に予定していた地域連携を更に強めるという目的を達成したと伺っている。
一宮市が積極的に取り組んでいるという状況であるが、県として、コミュニティ・スクールのメリットとデメリットをどのように考えているのか。
【義務教育課長】
コミュニティ・スクールのメリットとデメリットについてであるが、メリットについては、まず、保護者や地域住民が一定の権限と責任を持って学校運営に参画することを通じ、地域に開かれた学校づくりを進めることができることである。また、それにより、より透明で開かれた学校運営を進め、地域に信頼される学校づくりを目指すことができる。実際に一宮市におけるコミュニティ・スクール導入の成果として、次の3点の報告があった。1点目として、地域の学校への関心や子供たちを学校、地域、家庭で共に育てようという意識が高まったこと、2点目として、学校運営等に関する意見や要望が直接学校に伝わるようになったこと、3点目として、中学校区で取り組むことにより、小中学校の連携が図られるようになったことである。デメリットであるが、コミュニティ・スクールの役割として、学校運営に関する基本的な方針を承認することが挙げられるが、この決定に多くの時間を要したり、あるいは責任の所在の不明確さが生じたりすることが懸念される。また、地域によってはコミュニティ・スクールの継続的な取組を進めるための人材や経費が不足する恐れもある。更に協議会に参画する住民に偏りが起きたり、協議が形骸化するような恐れもあると捉えている。
今、文部科学省ではコミュニティ・スクールを推奨しているが、その中で、これまで学校評議員制度、これも似たような制度と認識しているが、その十分な活用実績がある教育委員会においては、コミュニティ・スクールへの積極的な移行が望まれるとされている。愛知県内では「学校評議員制度」が非常に浸透していると伺っているが、その辺も含めて、今後の方向性をどのように考えているのか。
【義務教育課長】
現在のところ、コミュニティ・スクールを導入しているのは一宮市だけであるが、「学校評議員制度」については、県内の97.5パーセントの小中学校で取り組んでいる。「学校評議員制度」は、校長の求めに応じて学校運営に関して意見を述べる仕組みである。これまで各学校の学校評議員は学校評価を始めとする教育活動に対する助言、あるいは授業公開日や運動会、環境整備、学校行事への参加など、幅広く学校に対する協力・支援活動を行ってきている。現在、県内のほとんどの小中学校では、この教育活動に極めて貢献度の高い「学校評議員制度」を継続することで、開かれた学校づくりに取り組んでおり、コミュニティ・スクール導入への積極的な動きは今のところはない。このような実態に鑑み、コミュニティ・スクールの導入については、各市町村教育委員会の主体的な判断に委ねていくつもりである。県としては当面、「学校評議員制度」の更なる有効活用により、地域住民の学校運営への参画を進め、学校評価の一層の充実あるいは地域連携により学校改善を推進していくよう、市町村教育委員会に指導・助言していきたいと考えている。
今回、コミュニティ・スクールを導入している一宮市の教育委員会の方に学校と家庭と地域の関係について話を伺ってきた。様々な取組についての話の中で、私の印象に残った話が、義務教育課長の答弁にもあったが、開かれた学校、信頼される学校というところで、先生は異動があるため一つの学校にとどまることはできないが、地域にある学校という形が確立されれば、いい伝統は受け継がれていく。そのためには、開かれた学校、すなわち教育現場で汗を流している先生の姿や健やかに成長していく子供たちの姿を地域の人々により知ってもらう活動が大切であるということであった。昔も今も学校は地域の象徴であるべきと考える。地域の方々にも子供を一緒に育てるという当事者意識を強く持ってもらえる学校運営をぜひ、教育委員会としても推し進めていただきたいと思っている。
続いて、若者学習支援人材育成事業について、伺う。この事業は、日本版ティーチ・フォー・アメリカと呼ばれ、昨年度、国からの緊急雇用創出事業基金を活用して、委託事業者とNPO法人を介しておおむね30歳未満の求職活動中の若者15人を半年間雇用し、小学校・中学校で研修してもらい、人材育成の後、就職へつなげるということを目的に実施されたものである。この事業は、産業労働部の所管事業であるので、昨年度に産業労働委員会で何回か質問したが、今回は教育委員会としての見解を伺っていきたい。昨年度、産業労働部では、本事業の評価について、良かった点として、多くの若者が自らを良い方向に変わったと評価していること、また、多忙な学校現場の課題解決の一翼を担ったことを挙げる一方で、最終目標である雇用に関しては、フォロー期間が短く、必ずしも着実な雇用へと結びつけることができなかったとしている。そこで、雇用促進という観点から、今年度は福祉分野の就職にもつながるように、研修先を小中学校から特別支援学校に変更したと伺っている。この変更について、雇用の選択肢が増える点については理解ができるが、それまで教育関連あるいは福祉関連に携わっていたわけでもない未就職の若者に児童を任せて大丈夫なのかという不安が昨年以上に募るところもある。そこで、教育委員会として、現在の取組状況、特に特別支援学校の現場からの声と産業労働部との連携について伺う。
【特別支援教育課長】
まず、若者学習支援人材育成事業の状況であるが、5月にこの事業の受託事業者が決まり、現在は、事業者が若年求職者の公募や選考を行っていると伺っている。今後は7月、8月にNPOが主体の事前研修を行い、9月から12月までの4か月間、県立特別支援学校15校において、教育現場研修を実施する予定である。
次に現場からの声についての質問であるが、教育現場研修が行われる特別支援学校からは、せっかくの機会なので障害児への理解を深めてほしいとか、サポートはありがたいといった声がある一方で、4か月という短い期間で仕事に慣れるだろうかといった期待や不安の声を聞いている。
最後に、産業労働部との連携については、教育現場研修を行う特別支援学校や事業受託者の選定等を含め、常に産業労働部と教育委員会が協力しながら事業の円滑な推進を図っている。今後についても、9月からの教育現場研修に向けた7月・8月の事前研修において、特別支援学校の授業見学や、障害のある子供への関わり方や介助の仕方などの特別支援教育に関わる研修を組み入れることなどについて、産業労働部と打合せをしながら連携していきたい。
昨年度も1年間この取組を見せていただき、小中学校、教育委員会の皆さんも色々不安なところがあったと思う。幸い昨年は大きなトラブルもなく事業が推移したと思っているが、今年はよりハードルが高くなったような気もするので、研修先がトラブルで混乱するようなことがあったら、子供たち、先生、若者、誰にとっても不幸なことであるので、教育委員会がぜひとも昨年度より更に深く本事業に関わってもらいたい。
最後に放射線教育について伺う。昨年の東日本大震災の発生から1年3か月が経過した。復興に向けた歩みを進めていく上で、放射線の問題、すなわち人々の漠然とした不安が大きな障害となっていると思う。これは私たちの放射線に対する知識がこれまで非常に乏しかったため、正確な情報の欠如によって引き起こされていると思う。そこで、放射線教育について伺う。放射線教育については、東日本大震災発災以前の平成20年に策定された中学校の理科の新学習指導要領に約40年ぶりに組み込まれ、移行期間を経た後、今年度から正式に取り扱われることとなっている。そこで、学習指導要領に沿って放射線教育をどのように進めているのか、また、高等学校での放射線教育についてはどのように進められているのか伺う。
【義務教育課長】
新しい学習指導要領において、放射線について扱うのは主に中学校の理科であり、その学習内容として、発電の仕組みや水力、火力、原子力などによる発電の特徴について理解させることや、放射線は自然界にも存在すること、あるいは放射線は透過性などを持っており、医療や製造業などで利用されていることにも触れることとされており、これに沿って授業を進めているところである。授業の一例として、その中の発展的な学習として、放射線測定器を使って身の回りに自然の放射線があることを確かめたり、あるいは、放射線は目に見えないわけであるが、それを生徒に見せるために、蒸気を発生させた箱、これを霧箱と言うが、その中に放射線を出す鉱物を入れ、その放射線の様子を見たりする等の内容を盛り込んだ指導も行われている。
【高等学校教育課長】
高等学校においては、中学校での学習を踏まえて、主に理科と総合的な学習の時間で放射線教育を進めている。例えば物理では、放射線及び原子力の利用、発展的な内容として原子核の崩壊や核反応について学習したり、原子に関する探究活動を行ったりしている。また、全ての学校ではないが、総合的な学習の時間では放射線の測定や放射能・放射線についての調べ学習、発表会、意見討論会などを実施している。更に平成18年度からは「エネルギー教育推進事業」を実施しており、この事業を通して教職員への放射線教育の支援を実施している。具体的には、毎年5校程度の学校を実践校として指定しており、放射線測定器を使用した実験や核融合科学研究所の施設見学など各校の実情に合わせた特色ある取組を行って、原子力、放射線や身近なエネルギーについての理解を深めさせている。
次に、昨年の福島第一原子力発電所の事故を踏まえて、文部科学省が希望する学校に対して副読本を配付したと伺っている。そこで今後、この副読本の活用を含めて放射線教育をどのように充実させていくつもりなのか、更に学校の教員の放射線教育の指導に対する支援についても必要と思っているが、教育委員会としてどんな支援をしていくつもりなのか伺う。
【義務教育課長】
県内のほとんどの小中学校においては、平成23年10月に文部科学省から発行された放射線に関する副読本を活用し、学習を進めている。昨年の原子力発電所の事故を通して、大変関心が高まっているので、理科の学習においては、正しい知識を身に付けることで、やみくもに放射線について不安を抱くのではなく、科学的な根拠に基づいて考えたり、あるいは判断したりすることができるよう、副読本を有効に活用して、放射線教育の充実を図っていきたい。また、現場の教員への支援であるが、県としては、毎年実施している「学習指導要領説明会」の場において、理科の新しい内容である放射線に関する学習内容についても積極的に取り上げ、各小中学校への周知に努めるとともに、更に文部科学省主催の「放射線等に関する教育職員セミナー」や「放射線等に関する出前授業」等を活用することで現場の教員の力量が向上するように、市町村教育委員会にも働きかけていきたい。更に文部科学省は、我が国における電力事情や原子力発電について正しく理解し、地球温暖化など環境に配慮して生活する態度を育成することを目的として、平成18年度より「エネルギー教育推進事業」を本課においても実施しており、本年度からは推進地区として豊明市を指定して、先進的な取組として、市内の全中学校において「放射線について知ろう」の授業を計画し、放射線測定器を使った実験や放射線の観察等を実施する予定である。本年度の推進地区での取組の成果の還元を図り、県内の小中学校を支援していきたい。
最後に、要望させていただく。放射線治療を専門とするある臨床医の本の中で、次のように述べられている。チェルノブイリ原子力発電所の事故後25年に際し、ロシア政府が発表した総括報告書では、放射能による影響に比して精神的ストレス、慣れ親しんだ生活様式の破壊、経済活動の制限、事故に関連した物質的損失といった他の影響の方がはるかに大きな損害を人々にもたらしたとまとめているそうである。様々な情報が乱れ飛ぶ今、誤った情報によって植え付けられた恐怖心や不安に基づく行動により、日本で同様の事態が引き起こされないか非常に心配であると、この先生は述べている。始まったばかりの放射線教育であると思うが、その重要性は極めて高いと思う。教育委員会として、ぜひこの問題をしっかりと捉えて、正しい知識の伝ぱに尽力することを強く要望する。